3月11日にアベ首相がNHKのインタビューで「おわび」を表明してから、日本のメディアで、従軍慰安婦について狭義の強制性はなかったという例の発言が話題に登ることはあまりないようですね。
13 日のオーストラリアのハワード首相との会談についても安保共同宣言の記事ばかりで、「過去の出来事に対してつまらない言い訳はしてはならないこと」「強制 動員がなかったという主張は、私としては絶対に受け入れることができないことであり、他の同盟国たちも絶対に受け入れることができない主張だ」とハワード 氏が語ったことも新聞記事になりませんでした。
はなゆーさんによると、米紙クリスチャン・サイエンス・モニターが「安倍首相よ、従軍慰安婦問題でウソをつくな! 正直であれ!」という論評を掲載したり、台北では安倍発言に抗議する集会が開かれたり、東ティモールの従軍違反の証言もあればアメリカのCBSテレビでは7日にも18日にもこの問題を報じています。
シンガポールのリー・シェンロン首相もカナダのマッケイ外相も言及。
グリーン前米国家安全保障会議アジア上級部長は「この問題が人道面で悲劇的な出来事だったことを忘れている。安倍政権が進める外交政策の良い面を台無しにしている」と批判したらしい。
そしてBBCワールド・サービスのニュースでも、「安倍性奴隷騒動」について東アジアの各地から意見を募りました。
21日は、ソウル在住の22歳女子学生、シンガポール在住の22歳の学生、台湾の30歳のIT産業で働く女性、フィリピンの54歳のビジネスマンの4人が語っています。かいつまんで次に記しておきます。
*ソウルの女子学生
自分の祖父母も含めて植民地朝鮮を生き抜いた人たちがまだ生存しているし、この時代の悲痛な記憶が人びとの心に生々しく残っている。日本語や日本文化に興 味を持つ若者も多いが、たった2、3世代前の出来事を忘れることはできない。元慰安婦は「日本政府の公式の謝罪と賠償」を求めている。
安倍は小泉よりも悪い。
*シンガポールの学生
日本政府が自国の歴史上の犯罪を否定する反応を示すのはほぼ確実だ。中国人の大半は学校で教えられているし、メディアによって補強されている。中国の抑圧された若者たちは自分たちの怒りとフラストレーションをぶつける相手を捜そうとしている。
若者の大半は日本を経済的先進国としてみているが、日本が攻撃的な外交スタンスをとることによって、その怒りの鉾先を向ける国として見られることになるだろう。
結果として安倍首相は、自国を不利な外交ポジションに置くことになった。
歴史上の犯罪をいつも否定してないがしろにしていると、この東アジア地域の共通の敵になって友人もいなくなるだろう。
*台湾の女性
日本の首相が公然と慰安婦には強制徴用はなかった、といったのは信じがたいほど愚かだ。
日本人は多くのインフラ整備をする一方で、台湾の人々を2等国民として扱った。台湾人は日本に対して入り交じった感情を持っている。
台湾支配が他の地域ほど残酷ではなかったし、戦後進駐してきた国民党の無秩序なやり方に幻滅した人たちが、日本について良い思い出を持っているのだと思う。
第2次大戦中の日本の残虐行為について、日本政府の姿勢はいよいよ否定する方向に移っている。
日本人は自分たちが素晴らしい民族であると考えているので、真実を知って若い世代へ過去の行為を伝えるのに非常にばつの悪い思いを抱いているのだろう。おそらく日本は、時と共に不面目な記憶も消えると考えているのだろうが、そうしている間は中国も厳しい姿勢で臨み、中国にいる日本人ビジネスマンに影響があるかもしれない。
中国と韓国が強くなればなるほど、両国は日本政府に正義を要求するだろう。
*フィリピンのビジネスマン
日本が戦時犯罪を認めることを拒否するのは予想通りだ。
第2次世界大戦中の兵士たちの雄々しさが強調される日本の歴史書が完全に書き直されて、やっと日本の人々は隣人たちがこの問題に強い感情を抱く理由が理解できるのだ。
アベ氏の発言は日本の政界で優位な立場を保ちたい政治家の特徴を示しているが、この手の発言をするように保守派から圧力を受けているのかもしれない。
フィリピン人の大多数は今度の選挙の方にずっと高い関心があるので、アベ氏の発言にはそれほど興味は示していない。
フィリピンが日本の援助に依存していることを考えれば、アベ氏の地位にそれほど大きな脅威になる反応は示さないと思われる。
しかしアベ氏が分かっていないのは、中国や韓国のように、彼の発言に腹を立てた国々がさらなる政治・経済上の重要性を勝ち得て、日本に影響を与える可能性のある決定をすることだ。
ううううう……。みなさん、鋭い……。
特に社会の第一線で活動されている後ろ二者の言葉には、現実を見て私たちの国のことをよく掴んでいるのがうかがわれます。
で、ひとつ疑問に思うことは、グローバル企業松下電器産業傘下の出版社PHP研究所が発行している『Voice』のことです。
2005年の中国に最も影響力の大きかったグローバル企業ベスト20に入った松下は6位のソニーに次いで7位を占めています。2005年3月31日現在の集計によると、松下電器産業及び同グループの在中現地法人は、1統括、51メーカー、6研究開発、6販社、2物流で、合計66社の現地法人を数えることが出来るということです。
そうしたグローバル企業が、保守を理念的基礎に、日米同盟の強化を最も重要なアジェンダにする反アジア的な雑誌を出しているのに驚きます。
たとえば、2002年9月号の特集は「靖国参拝の何が悪い?」のテーマで瀬島龍三と上坂冬子の対談、2003年12月号「安倍晋三総理待望論」で渡部昇一 と福田和也、2004年9月号「皇室の危機、日本の危機」で福田和也と中西輝政、2005年3月号で「日中友好の終わり」で町村信孝と中西輝政、といった 具合で特集が組まれ、それぞれに外国人寄稿家としてオ・ソンファ、金美麗等の名前が見えます。
1946年に設立されたPHP研究所が『Voice』を創刊したのは1977(昭和52年)12月。日中国交回復から5年が過ぎています。
ロッキード事件の公判が始まり、大学入試センターが発足して、福田改造内閣がスタートした年。この時の内閣官房副長官は、あの森喜朗です。
CNET Japan によると、
松下電器の中国進出は、1979年に国際交流基金を通じて、北京大学や復旦大学に語学教育用のLL設備を寄付した活動から始まった。現在、同社は中国で通 信機器を開発し、どこでも、いつでも、誰でも利用できるネット社会を整備す ることに力を入れている。松下電器は2006年に中国で700億元(直近の為替換算レートで約1兆270億円)を売り上げることを目標に掲げている、とい うことです。
経営の神さまといわれた松下幸之助が創設した出版社が発行する雑誌と、やはり氏が創業し育て、中国へ進出して根を張ってきた企業との間のギャップはどう理解すればいいのでしょうか。
2006年4月現在で、日本の総合時事月刊誌のうちVoiceの発行部数は35,592部で第6位。ちなみに第1位は『文藝春秋』の626,750部です。
おそらく中国に進出して第一線に立った松下のビジネスマンや技術者たちが地を這う努力を重ねて現在の地位を築いてきたのでしょう。もちろん、その際、Voice的価値観は拭い去る必要があったとは思うのですが、それにしてもこのギャップ、あまりに皮肉すぎます。
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