「我が社のポリシーは、プロの国際的な専門技能と優秀なローカルスタッフの現場の経験をミックスさせた質の高いサービスです」
 こんなうたい文句を聞くと、一見ごくありふれた企業ですが、「プロの国際的な専門技能」とか「現場の経験」とかなんだろう? 僕でも私でもできるのかしら? なんて思ってそのビジネス内容を知ったら、目をむくことになります。

 2005年の5月、イギリスの会社に雇われて米軍基地に物資を運ぶ車両の警護をしていた日本人が、帰路に襲撃、拘束されたことが報じられました。斎藤さん、44歳。
 この斎藤さんが所属していた会社が、いわゆる民間軍事会社PMCと呼ばれるものです。

 軍事には全くといっていいほど興味のなかった私が、『FACTA』編集長阿倍重夫さんのブログで知った『外注される戦争』が気になって、半日の間没頭し、とうとう読み終えました。

  著者菅原出(いずる)さんは日本財団の関連団体、東京財団の研究員で、PMC研究の機会を与えてくれたのが東京財団の元会長、日下公人。同財団に菅原さん を紹介するきっかけを作ったのが『正論』編集長、上島嘉郎とあると、私がこんな本を読むのは悪い冗談ではないか、とひとり苦笑い。

 少ない兵力と資金でイラク戦を遂行しようとした米軍が常に兵員不足に悩み、PMCバブルが現出しますが、このPMCの業務内容は、実に多岐にわたります。
 単なる傭兵会社ではありません。
 ビジネスを起こしたのは、軍のエリート部隊や特殊部隊、情報機関で実績を積んだ「安全提供」「リスク管理」「危機管理」のプロたちですが、戦闘まで請け負うのは少数のようです。

  正規軍の後方支援、つまりロジスティックス、兵器の修理・メンテナンス、インテリジェンス、偵察、監視、地雷・不発弾処理等から、部隊や紛争地の治安を担 当する警官の訓練まで請け負います。CIAの工作員の警護をするのも仕事の一つですし、今やアフガニスタンやイラクに足を踏み入れようとしたら、PMCと の契約が欠かせないとか。

 ついでに述べておきますと、グアンタナモ基地アブグレイブ刑務所での収容者虐待に関わった尋問官の15名もPMC所属という民間の契約者です。ですからその不正行為は軍法会議でも裁くことがきません。

 そうした紛争地、ことにイラクでのPMCの実態が描かれた中で私の印象に残ったこと、「戦争広告代理店」について少し。

  イラク戦争開始前に、ブッシュ政権は戦争に対する米国民や国際世論を味方に付けるために、民間の広告代理店を使って大々的にプロパガンダを行う。これを請 け負ったレンドン・グループは9.11テロ事件以降、5,600万ドル(約67億2,000万円)以上の仕事を米国国防総省から委託されている。

  パナマの独裁者ノリエガ将軍追放に際し、CIAの望み通りにことが進むようキャンペーンや心理戦をデザインしたのがこの会社。世界中のメディアから当時の 英・伊の首相、ローマ法王まで引き込んでいる。ノリエガ勢力の暴力沙汰を映像に撮り、数時間後には世界中のメディアが報じるように配信手続をし、さらには ノリエガの対抗馬のためにサッチャー英首相・伊首相・ローマ法王(当時)たちとの会談までもアレンジしたのだ。

 パパ・ブッシュの第1次湾岸戦争の際はクエート政府のプロパガンダを支援する。
 湾岸戦争後の追い落としターゲットはサダム・フセイン。
「世界中のメディアに対して『いまや湾岸戦争に敗れ十分に抑止されている一地方の指導者に過ぎないサダム・フセインを、世界平和に対する深刻な脅威であると信じ込ませること』」が次の仕事だった。
 最初はCIAが、次は米国防総省がスポンサーになって、一民間企業が国民の価値判断を巧妙に操作した。もちろんこれには、欧米側の情報機関がイラクの大量破壊兵器開発に関する見積もりを誤っていたことも大きな原因だったが。

 イラク戦争は「選択の戦争」だった。
 時の政権が他の政策オプションもあったにもかかわらず、戦争というオプションをあえて「選択」したのだ。だからなるべく低コストですませたい。

 と、ここまで読み進めたとき、とたんに私は不安になりました。

 あまりの無条件さでアメリカに奉仕する政権について、森田実さんがちらっと言われた「弱味を握られているのではないか」ということば。
 そして今現在アメリカで進行中のアベ・バッシング、ひいては日本バッシングが、イラク侵攻前、ネオコンがフセイン政権に対してやったのと同じ手口の攻撃だ、という田中宇さんの分析。
 さらにははなゆーさんが懸念する大衆レベルでの日本たたき。

 こうした警告を1度に思い浮かべてしまったからです。
 残念ながら今のアベ政権は、国際的な動きに対処できていません。従軍慰安婦発言では言質を取られ、その後の釈明も効果なしです。政権を維持するための内向きパフォーマンスにばかり囚われているからです。
 
 折りもおり、昨日3日の毎日夕刊に、元外務審議官の田中均氏が「三極会議で見た世界との落差 内向きに転じる日本 国際関係の再考今こそ」と寄稿されていました。

  諸外国から見ればナショナリズムの回帰とも映る近年の日本の内向きな傾向に私は強い危惧を持っている。このままでは日本を国際社会の中に融合させていくこ とはどんどん難しくなっていくだろうし、日本の常識は国際社会の非常識となり、場合によっては日本が孤立していることにすら気がつかない、といったことに なりかねない。
と、田中氏は言われています。
 
 こうした現状にあまりに無策なアベ政権。見識の無さと我が身かわいさの先行。
 
 それにアメリカの戦争広告代理店が情報戦・心理戦を仕掛けてくるときの戦略に、この国の政治家たちはいかにも簡単に乗ってしまいそうではないですか。

 金と女に特別弱いものが大物と考えられている日本の政治風土で、《身辺がきれいな大物政治家》がどれだけいるでしょうか。
 近頃はこれにカルトも絡んでいます。

 日本のリーダー達の弱味を握ることなど、実に簡単なこと、朝飯前のことかもしれません。

 メディア操作で作り上げられた政治家たちの虚像が崩れたとき、いうなれば化けの皮がはがれたときの有権者の反応を考えれば、身に覚えのある政治家たちは戦々恐々として、簡単に戦争広告代理店に操られる、と疑っても不思議がないような……。

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