JMM5月26日配信分のタイトルは「郵政民営化の波及効果は?」でした。
編集長村上龍氏の「郵政民営化から約半年が経過しましたが、どのような波及効果があったのでしょうか」という質問に対する以下6名の金融専門家の回答です。
真壁昭夫 :信州大学経済学部教授
菊地正俊 :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト
山崎元 :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
杉岡秋美 :生命保険関連会社勤務
津田栄 :経済評論家
土居丈朗 :慶應義塾大学経済学部准教授
金融専門家たちは郵政民営化をどう見ているのでしょうか。
私には山崎元氏のゆうちょ銀行・かんぽ生命が実力の伴わない賭に出ないようにしっかり監視することが大切、という指摘にうなずいておりますが。
【真壁昭夫】
目に映る範囲での波及効果は少ない。
が、郵便事業会社:予想収益を上方修正
郵便局会社:収益予想を大幅に下方修正
→決算の数字が表に出る意義は大きい。組織のカルチャーも変わっていくだろう。
ゆうちょ銀行:2月、民間の大手企業向けの協調融資に参加
→民間部門に配分されるルートができた
日本郵政会社:コンビニと共同店舗を開設
↓↓
事業会社自身の合理化・効率化
これまで合理性の原理が通用しなかった部分に、少しずつ経済合理性の考え方がしみ始めている。
【菊池正俊】
今は大きく変わったように見えない日本郵政も、年月を経て、民営化の果実が出てくるだろう。
ゆうちょ銀行:ゆうちょ残高の減少、投信販売の増加
残高 186.9兆円(2007年10月末)
181.4兆円(2008年3月末)
→ マイナス5.5兆円
かんぽ生保:
総資産 112.8兆円(2007年10月末)
110.8兆円(2008年2月末)
→ マイナス2兆円
このマイナス分は民間銀行へ。
特に地銀に。また定期預金に行っている。
資金流出に頭を悩ますゆうちょ銀行は、4月に流動性預金の限度額規制(1人あたり1,000万円)撤廃の政令改正要望を行ったが、 決定までには時間がかかるだろう。
2月に新日本製鐵向けにシンジケートローンで企業向け融資に初参加(真壁氏のいう「民間の大手企業向けの協調融資に参加 」のことでしょう)
かんぽ生保は日本生命と商品開発や事務・システム業務等で業務提携。
ゆうちょ銀行・かんぽ生保ともに将来の完全民営化に向けて、収益力を高める必要から、徐々に積極的な資金運用に出ている。
郵政民営化が他の金融機関に与える影響はこれから出てくる。
【山崎元】
郵便貯金から財政投融資に半ば自動的に流れるお金の流れを断ち切り、財政投融資に規律を持たせるという小泉純一郎首相(当時)の民営化論の主旨は、すでに郵政公社の財投預託義務が解消された時点(2001年)で、制度的には解決していた(では、コイズミ純一郎氏は何を言っていたのでしょうか? ほんとにあの2005年の選挙はメチャクチャです)。
郵政民営化というテーマが日本にもたらした最大の影響は、2005年の郵政民営化法案の参院での否決によって衆院解散総選挙が行われ、与党が大勝したこと。
これによって妙な政治状況がもたらされた。
郵便貯金は種々の利点を失い、民間銀行として此を維持するのは大きなリスクがあると考えられた。本来、廃止を決定すべきだった。
近い将来、国債と民間銀行の預金金利が上昇すれば、ゆうちょ銀行の経営は苦しくなるはず。
簡易保険についても、日本の民間生保会社の商品では保障にも貯蓄にも使われない保険会社の経費に充当される保険料があまりにも高いことを考えると、民間の保険会社間の競争が重要で、簡易保険を残すことはなかった。
↓
理想的には、郵便事業が民営化されて自由競争の下で効率化され、郵貯と簡保は極力速やかな縮小廃止に決まるのが良かった。
ゆうちょ・かんぽ双方についての心配は、資産の運用面で過大なリスクとコストを掛けて、無理をする可能性
過大なリスクとは、
判断能力が伴わない貸し出しの拡大、不動産担保ローンへの集中、ヘッジファンドや新型金融商品への投資、株式やリスキーな債券での運用、本業以外への経営多角化
外資の買収・支配については、買い手にとって妙味が生じるのは業績が悪化して株価がそれに過剰反応するときなので、買収・支配以前に問題になることは、身売りやリストラを怖れた両社が、必死で実力の伴わない賭に出る可能性だ。
短期的な収益の重視といった利用者にとっても不具合の可能性は、法令整備であらかじめ対策すべきだ。
ネガティブ名情報が聞こえにくい状況なので、資産運用などで前向きな試みを発表しているような状況でこそ、将来の苦境の為が撒かれているのではないかと、疑い深い目をもって監視していくことが重要。
【杉岡秋美】
現状では、国民が民営化で得られるべきであった、効率化の果実をあまり享受できていない。
郵貯と簡保については、資金量と職員の規模をそのままに維持した民営化のため、組織と職員を養い、かつ株主に配当するだけのビジネス基盤を確保することが急務。
資産の運用先を国債以外のものへ多様化も、資金量が大きすぎること、およびリスク管理のノウハウの蓄積が乏しいため、簡単にはいかない。
投信販売ビジネスを大きく展開しているが残高は頭打ち。
現場職員もコンプライアンスとノルマの間で苦労している。
規模を維持したままでの民営化のコンセプトそのものの矛盾が現れている。
この種の問題は今後さらに顕在化することが考えられる。
(ということは、リストラをしろ、ということでしょうか?)
【津田栄】
民営化後、企業向けシンジケートローン参加(先述の新日鐵向け融資のこと)や住宅ローンなどの融資など業務が拡大した。
郵便業務ではサービスや利便性の改善が見られる。
税収増が現実化し、国民負担は減った。
預金・保険金等の資金は自主運用されることになって、融資業務に資金が使われるようになった。
最近は外資系運用会社に委託して外債などへの投資を本格的に始める動きが出てきている(ただし、資金の9割は国内債券で運用されている)。
各種手数料の値上げなどの利用者の負担増=民営化の波及効果の一つ。
今後いずれ業績にあわせてリストラ等の合理化が進められるだろう。
過疎地でのサービス低下、地域間格差の促進
→ 一層の過疎化と都市集中を進行させる=第2の波及効果
資金量の多さから従来の民間会社を圧迫する恐れ、特定の民間企業との接近で民間での競争をかく乱する恐れ=第3の波及効果
政治の機能不全を招いた=第4の波及効果
2005年の総選挙による与党の絶対安定多数獲得から衆院の暴走 → 参院選の野党勝利 → ねじれ現象
↓
郵政民営化を争点としたことでもたらした政治の機能不全が、世界経済の急速な変化に対応できず、経済への悪影響を与え、再び閉塞感をもたらし始めていることが大きなデメリットの可能性
2001年の財投改革から財政投融資制度が廃止され(前述の財投預託義務の解消されたことと同じことでしょう)た後もこの7年間、資金を自主調達できない特殊法人のために発行する財投債を郵貯・簡保が引き受ける義務が課されていた。
今年度からこの義務が解除されたが、自主運営がどれだけできるのか、また乱高下する市場でリスクをとって資金運用を図れるのか、不安だ。
【土居丈朗】
郵政民営化をはじめとする「構造改革」は、改革に伴う移行過程が生じて中長期的なコミットメントが必要であるにもかかわらず、現在それがなされていないために、改革反対派から骨抜き工作にさらされようとしている。
(移行過程とは、郵政でいえば2017年の完全民営化までの過程のことでしょうね)。
また、いつ何時、後期高齢者医療制度のように国民からの批判が強まるか分からない。
今後郵政民営化が、改革遂行の主がいなくなったとたんに骨抜きにされるようなことにならないように、国民の批判が高まっていないうちに、金融面での民間市場への悪影響を除去するとともに、リストラがさらに必要なところでリストラをきちんと行う形で、郵政民営化をより徹底させる必要がある。
これにより、より多くの国民が郵政民営化の成果を享受できるようになる。
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以上識者6人の郵政民営化半年後の現状についての分析でした。ところどころに( )に入れて私の疑問等も挿入してます。
こうしてざっと見ていきますと、ゆうちょ銀行、かんぽ生保が自由な金融市場でどれだけうまく資産運用して生き残れるかどうか、どうも不安が大きいようですね。
業務の効率化・合理化、つまりリストラが必要だ、と認識している声が大きいのも気になります。
特に最後の土居氏の論には、正直言って、読み終えて一気に疲れを感じてしまいました。
リストラを行って民営化を徹底させろ、そうすればもっと多くの国民が民営化の成果に喜ぶことになる、という下りを読むと、少数者を犠牲にすれば多数のものが幸せになる、という理屈で、ああ、私とは哲学が違う、という思いと同時に怒りさえも覚えます。
郵政民営化が完全民営化へと進むに従い、道はいよいよ険しく、ますますいばらの道になっていくように思われました。
