数日前に、従軍慰安婦問題の背景に関する報告書が米国議会調査局から出されているのを知り、あわててこれを読んでみました。
この全 23ページにわたる報告書については、特に元慰安婦の証言を否定したい人たちの間でちょっとした話題になっているようですね。いずれにせよ、ブログで ちょっと取り上げるにしては長すぎるので、Sankewebでも、個々の方々のブログでも、自分たちの主張にとって都合のよい部分だけを取り上げて論評し ているような気がします。
読んでみると、そっけない文面の「河野談話」に比べ、元慰安婦の方々の証言のほんの一部にふれた部分からでも酷い体験がこちらにも伝わり、やりきれない思いにとらわれるのはどうしようもありません。
この従軍「慰安婦」システムに関する報告書は、複数の議員の依頼により作製され配布されたようですが、1930年代から第2次世界大戦まで、日本軍兵士・ 軍属へのセックス提供のために日本軍が組織した「慰安婦システム」に関する背景を提供する、という文言から始まります。
報告内容の各タイトルは、序論に続き、次のようになっています。
下院決議案
河野談話を見直す日本の運動
安部首相とその政権のことば
慰安婦システムに関する証拠
1922・23年の加藤・河野談話
アジア女性基金
元慰安婦たちへの総理たちの謝罪書簡
アジア女性基金への国外の反応
日本の教科書の慰安婦問題
日本および米国での慰安婦訴訟
結論
今回安部政権と自民党議員たちが問題視した米国下院決議案ですが、同類のものはすでに昨年9月に下院国際関係委員会で可決されていますが、本会議での採決がないうちに休会に入ったということです。
河野談話修正の動きはすでにアベ氏が首相になった直後の10月、下村官房副長官から始まります。
そして年が明けてすぐ、中川昭一政務調査会長の後援で、自民党有志により「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」が立ち上がり、 河野談話見直しの行動に入ることが宣言されますが、これに呼応して官邸側もその検討に入ることが3月2日の産経に報じられています。
トーマス・シェーファー駐日大使ほかオーストラリア・フィリピン両政府から警告や批判が出されたのはこの時のことです。
「慰安婦システムに関する証拠」の項では、吉見教授の発見したもの以外にも、実にさまざまな証拠物件があげられています。
目を引いたのが、日本占領下のインドネシアで売春を強要されたオランダ女性たちに関するオランダ政府の文書の存在。オランダ国立文書館に保存されています。この中には、1947・48年にオランダ軍によって行われた戦争犯罪裁判関係の文書類も含まれています。
結局、これまでの慰安婦システムに関する日本での、また日本と外国との間での議論の中心になったのは次の3点であったということです。
1.日本軍と日本政府の関与の程度
2.慰安婦徴募・輸送に日本軍の関与があったかどうか
3.慰安婦システムの中に連れてこられた女性たちが、自由意思で売春に従事したか、それとも不本意ながらせざるを得なかったか
このように問題点をまとめていると、分かりやすいですね。
「広義の強制性」とか「狭義の強制性」とかの議論にもっていこうとするのは、やはりおかしい。
報告書の中でもこの点に触れて、「2007年の慰安婦徴募における強制をめぐる議論は、慰安婦たちは同システムの中で自由意思に基づいて売春をしたのか、不本意ながらせざるを得なかったのか、というより大きな問題を覆い隠してしまった」と述べています。
アベさん、見透かされていますよ。
で、この報告書のなかでも一番気になるのは、
「1992年以来、第2次世界大戦の前から戦中にかけて、慰安婦システムの設置・運営に関わった日本の軍隊および政府の役割を、日本政府が十分に認めてきたことに疑いの余地はほとんどない」
という文言で始まる結論です。
3月の安部首相の「強制の証拠はない」発言を待たずとも、小泉首相(当時)の靖国参拝、歴史教科書の内容、中山成彬文科相(当時)の「慰安婦の記述がある 教科書は1社だけだ」等々の「日本の政治リーダーたちの言葉」をめぐる論争によって、慰安婦システムへの軍と政府の関与を認めて謝罪してきた日本の姿勢に 疑念が生じてきたことが指摘されています。
「自民党の日本の前途と歴史教育を考える議員の会に代表されるような日本の歴史修正主義者たちは、重大な罪が免除されることを求めているように見える」とも。
この流れの中で沖縄戦での民間人の大量自決に関わる日本軍の役割を記述した部分が教科書から削除されたことにも、きちんと言及しています。
また、河野談話をきっかけにして設立されたアジア女性基金と、基金からの補償金を受けとった元慰安婦たち人たちに渡された「日本国首相」として「謝罪と反省」を述べた総理書簡をかなり高く評価しています。
この時の「お詫び」の言葉は、受けとった本人よりも、むしろすべての慰安婦にされた人たちになされているものだ、とつけ加えながら。
「謝罪にふさわしい形として日本の議会での決議を提案するものもいるが、全会あげてそうした決議案に賛成する可能性はわずかなように思える」と、いたって現実的な観測をしています。
さらに現実的なのが、次の話し。
「日 本はドイツの例にならって、強制徴用された労働者や捕虜のような虐待を受けた他のグループに補償する半官半民の基金を追加的に設立すればよかったものを、 という声がある」が、そうした場合は、1945年の日本各地の都市を焼夷弾爆撃したことと原爆投下に対する補償を日本から求められる可能性がある、とも述 べています。
日本は戦時犯罪をきちんと謝罪し、それを補償する。
そして米国にも日本の都市を焼け野原にした空襲と原爆に対する謝罪と補償を求める。
それが本当ではないでしょうか。
今現在も戦禍に苦しむイラクを初めとする国々の人たちのためにも。
さて、最後に、
アベ首相以下閣僚たち、日本の前途と歴史教育を考える議員の会等が、元慰安婦の証言の信憑性を疑って「強制の証拠がない」という発言が、つまるところサンフランシスコ平和条約第11条に違反しているおそれがある、という話も忘れることができません。
アベ首相以下閣僚たち、日本の前途と歴史教育を考える議員の会等のその発言は、主として朝鮮の状況の認識からきたものであろうが、それはオランダ戦時犯罪裁判の評決に反する、というわけです。
サンフランシスコ平和条約第11条には、「日本は、極東軍事裁判所並びに日本国内及び国外の他の連合国戦争犯罪法廷の判決を受諾し……」とあるのです。
では、今日はこれくらいにして。
近いうちに、せめてこの報告書のうち「結論」部分の訳だけでもアップしたいと考えていますが、どれだけ余裕があるか、それが少々気がかりです。
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